森林と持続可能な開発に関する国際会議「森林の価値」
開会の辞
国連大学本部 2000年10月12日
WCFSD委員、参議院議員 広中和歌子
東大教授、宇宙物理学者の松井孝典氏は、人類は宇宙から地球を眺められる時代に生きているのに、政治や人々の関心は景気の先行きなど相変わらず目先のことばかりであると、あるエッセーのなかで述べている。21世紀まであと100日をきり、新世紀の最大の課題は地球環境といわれているのに です。
しかし、本日はこのように大勢の方がこの森林会議にご参加くださり、本当に嬉しく存じます。私はWCFSD、森林と持続可能な開発に関する世界委員会の日本人メンバーの一人として、ご挨拶の機会をいただきました。WCFSDのこれまでの活動とその成果などについては、基調講演のなかで共同議長のオーラ・ウルステン氏(スウェーデン元首相)からお話をいただきますが、私はこの会議に至るまでの簡単ないきさつをご紹介し、様々な方にお世話になったことに対してこの場で感謝の気持ちを表したいと思います。
WCFSDは1992年のリオ・サミット後の1994年に誕生しました。リオでは温暖化防止条約、生物多様性条約、砂漠化防止条約は生まれたものの、森林については原則声明で終わっているからです。健康な森林は、気候変動や水質、土壌と同様、地球上に住む人類をはじめ、様々な生物にとって必要欠くべからざるものであるにもかかわらず、全体としての取り組みは、各国、各地域、あるいは個人にまかされ、総合的な森林資源管理は遅れているのが現状ではないかと思います。つまり、森林はそれぞれの国や地域、個人に属する生産財であり、かつ消費財であると考えられているのだと思います。
20世紀後半、この地球上の森林、特に熱帯雨林の急速な減少に危機感がもたれていましたが、消費財、貿易財として世界各地で森林が伐採され、焼畑農業や宅地へ転用され続けた結果、森林減少はなかなかとまりません。一方、わが国は国土の67%が森林ですが、木材需要の80%を外国に依存する木材の輸入大国です。円高と林業従事者の高賃金が、日本の林業の国際競争力を弱めた結果です。しかも、残された森も決して健康的な森とは言い難いのです。このような状況に対処するためには、世界的規模での包括的森林政策が必要でした。リオサミット以降、WTOの中に経済発展と環境の持続可能性への配慮をとりこむため、貿易と環境委員会(CTE)が設立されました。また、IPF(森林について協議する政府間パネル)もできました。しかし、こうした政府間のとりくみだけでなく、民間でも独自にヒアリングを行い、森林に生活の糧を依存している人々の声を充分に政策に反映させ、科学的知識に基づいた持続可能な森林政策にむすびつけるような合意形成が必要だったのです。
世界の首相経験者からなるOBサミットでそのことが強く指摘され、ウルステン元スウェーデン首相とエミル・サリムインドネシア環境相のリーダーシップのもとに、森林の持続可能な開発についてのコミッションが作られることになりました。それに対して、物心両面でスウェーデン政府、ノルウェー政府、オランダ政府、カナダ政府、日本政府、UNDP、EU等が御支援くださいました。そこで、政治、政策、科学、林業分野にかかわる南北24カ国の個人がジュネーブに集い、地球上の5つの大陸、アジア、アフリカ、ユーラシア、南米、北米で、実地調査とヒヤリングを行うことになりました。
主な関心テーマは、
・森林保護と森林利用にどのようにおりあいをつけるか
・森林政策をどのような形でうちたてれば、持続可能な森林経営が可能か
・ 森林科学の発展、森林データの収集、政策的協調を強化することにより、森林の役割強化を計れないか
等でした。
足かけ3年の歳月をかけた調査の結果生まれたのが、"Our Forests Our Future"(「我々の森林、我々の未来」)という題のレポートです。その中でコミッションは、「我々は、森林の社会的・経済的発展における役割を認識する一方、その生態学的な価値を尊重する道を、緊急に選択する必要がある。」と述べています。
こうして出来上がった冊子が、一部の専門家や関係者に送られ、他の多くの書類と共に本棚に納められてしまうのは大変残念だと、私たちコミッション・メンバーは思いました。レポートの中身を広く世界の人々に知ってもらい、それぞれの国や地域で森林についての政策立案や政策転換につながらなければ、こうした調査の意味はありません。そのため、WCFSDはあらゆる機会をとらえ、世界各地で発表を行っておりますが、我が国日本でも、多くの参加者を得て森林会議を行い、そのなかにWCFSDの成果を活かせればと願いました。
幸い国連大学ヒンケル学長、鈴木基之副学長が、国連大学の主催に応じて下さり、WCFSDとともに、環境庁、林野庁の共催、そして外務省をはじめ、多くの後援を得て、今日の森林会議が生まれました。心から感謝申し上げます。また、この会議に森林にかかわる多くの方々が、お忙しい時間を割いてスピーカー、パネリストとしてご参加くださいました。ありがとうございます。
この会議の特徴は、森林を単に利用すべき消費財、林業にかかわる生産財としてとらえるだけでなく、森林にまつわる文化、人間を含む生物の多様性、保水のための水源としての役割をはじめ、多角的に森林の価値について考えることにあります。
これまでのWCFSDの活動を支えて下さった国や国際機関、団体、企業、個人は、世界中に沢山おられますが、ここでは特に、日本の方々に言及し、感謝の気持ちを表したいと存じます。<日本財団、経団連自然保護基金、環境事業団、三菱商事、日本電気、東京電力、電気連合会、平和中島財団> 本当にありがとうございました。