第155回 外交防衛委員会
2002年11月26日(火)
○外交、防衛等に関する調査
(イラク情勢等に関する件)
☆答弁者
参考人
防衛大学校 教授 孫崎 享 君
東京大学大学院 教授 山内 昌之 君
中央大学 教授 横田 洋三 君
【参考人からの発言】
○参考人(孫崎享君) 防衛大学校教授孫崎でございます。よろしくお願いいたします。
国際社会では、従来より、イラクが生物・化学・核兵器を秘密裏に開発しているのではないかとの懸念があり、この懸念を受けて、先般、国連安保理は決議一四四一を採択しました。また、米国では、イラク攻撃の必要性を説くブッシュ大統領の共和党が中間選挙で勝ち、間接的に米国国民がイラク攻撃を支持する形となりました。また、米国と同盟国等との観点では、NATO首脳会議及び米ロ首脳会議でイラクに大量破壊兵器破棄を求め、従わない場合には重大な結果を招くと警告いたしました。これにより、米国及びNATO諸国などは、イラクの対応次第では軍事行動も辞さない態勢を取りました。したがって、米国等による軍事行動の有無は、イラクの国連決議への対応に掛かっています。
国連側は、決議一四四一で、イラクは大量破壊兵器の破棄を定めイラクが受諾した国連安保理決議に違反していると決定したように、イラクが大量破壊兵器を保有していると見ています。
しかし、イラクは、国連決議遵守を国連に伝達した際に、一九九八年以降、大量破壊兵器の開発製造は行っていないと報告し、また、国連査察チームのブリックスに対してイラク大統領顧問は、過去の計画に関しては詳細に報告する、しかし現在は大量破壊兵器計画は有していないと述べております。これを受けブリックスは、イラク側は我々を納得させる準備ができていないのではないかとの懸念を表明いたしました。
イラクの対応は、米国及び国連関係者の認識と明らかに異なっているようです。米国及び国連関係者が、イラクは大量破壊兵器の破棄に真剣に対応していないと判断される可能性があると思われます。
今後、イラクの対応が米国ないし国連によって不十分と判断される山場は幾つか想定されます。近い将来では、十二月八日予定のイラクの対国連開発計画報告がその一つです。イラクの報告次第によっては、米国及び国連が厳しい判断を行うおそれがあります。
私は、イラクに対する軍事行動がなされた際、仮に軍事行動自体が問題なく推移したとしても、軍事行動後のイラクの政治状況の安定性については相当の懸念を持っております。そのことは、中東全体、更にアジアのイスラム教徒の存在する国家等へのマイナスも想定されます。それだけに、イラクが国連決議を真剣にとらえ、国連決議遵守に向かうことを強く希望します。
しかしながら、サダム・フセイン大統領は、従来より、極めて危険な状況になっても自己流のゲームをすることを好んでいるように見られます。例えば、湾岸戦争直前、仲裁に入ったソ連のプリマコフ氏が、今は取引や駆け引きの時期ではないのだ、国の命運が決められようとしているのだと強く譲歩を助言したにもかかわらず、助言に耳をかさずに湾岸戦争突入になりました。
イラク攻撃は、サダム・フセイン大統領の命運のみならず、中東、国際情勢全体及び米国と同盟国との関係にも影響を与えると見られ、これらにも言及しつつ、若干付け加えたいと思います。
現在、イラクに対する厳しい見方は米国が主導していることは事実です。米国のイラクに対する動向を見るとき、その決定に当たっては次の三つの要素が重要な役割を果たしていると思われます。第一に、安全保障から見たテロの位置付け、第二に、内政、特に大統領選挙との関係、第三に、米国中東政策におけるイスラエル要因の影響。
九月十一日の米国同時多発テロ事件は、米国の考え方に深刻な影響を与え、米国軍事戦略を大きく変化させました。従来にもテロはありました。例えば、日本に関係するペルー日本大使公邸占拠事件あるいは浅間山荘事件等が代表例と言えましょうが、ここでは、テロが勃発しても、テログループの同僚を釈放しろとかお金を与えろとかという交渉の段階があります。また、時によって特殊部隊を派遣することも考えられました。したがって、テロに関する危機管理はテロ発生後が中心とも言える状況でした。
しかしながら、米国同時多発テロは従来のものと明確に異なりました。テロリストは何ら交渉することを考えず自爆を行う、そして、自爆に際しては米国、米国人に最大の被害を与えることを目指す。そうしますと、テロ側が最大被害を与えるために、通常兵器のみならず生物・化学・核兵器の保有を目指す可能性がある、かつ、テロが発生したときには莫大な被害を残して一気に終結します。
こうした状況の帰着として、次の二つが出てきます。一つは、生物・化学・核兵器、かつ、その運搬手段としてのミサイル開発の動きについては厳しく対応する、いま一つはテロの脅威に対しては先制攻撃で対応する、こうしてテロの脅威に対抗することを中心に据え、先制攻撃を含む新しい米国戦略が出るに至ったと思います。
米国の政策は、国内の各種思想、利益グループのぶつかり合いにより絶えず変化していることに特徴があり、新戦略も恒久的なものであるかは疑問がありますが、新戦略を模索する中で出てきた傾向には次のものがあります。単独主義、先制攻撃、中東政策におけるイスラエル要素の強固な反映。
この中、単独主義に関しましては、小泉総理がブッシュ大統領に直接国連を重視するよう述べられたことを含め、国際社会が米国に国際社会との協調を訴えたこと及び米国内での影響力をめぐる争いの中でパウエル国務長官が取りあえず勝利したこともあって、米国はイラクをめぐる国連決議重視の姿勢を出しました。
米国が単独主義的な傾向を強化することは国際政治の安定に望ましいことではありません。そのことは、逆に国連や同盟諸国側に米国が単独主義に走らないよう、当面最大の焦点である国連安保理決議一四四一が効力を有する努力を行う等、歯止めに向け努力をする必要があるのではないかと思われます。
最近、NATOは、テロや大量破壊兵器の拡散をNATOが直面する脅威とし、これに対抗できる軍事力の強化と域外にも派遣するNATO即応部隊の創設を決定いたしました。これによって、米国の軍事面での欧州離れを当面食い止めたと言えましょう。
ラムズフェルド国防長官の考え方を見ますと、どの国が我々を脅かすかというとらえ方を幾分弱め、どのようにして我々が脅かされるのか、その脅威から我々を守るには何が必要なのかが重視されるとし、かつ他国の貢献の方法の決定を各国にゆだねるとしていますが、このことは米国から見ての同盟国の重要性は個々の脅威に対するのにどう協力しますかにより変化するわけで、日本が米国との強固な同盟関係を必要とするのであれば、個々のケースに何ができるかを真剣に考慮せざるを得ない時期に来ていると思われます。
冷戦が終了し、国際社会の役割は明らかに変化しています。今や国連安保理が重大な安全保障の問題を全会一致で決定できるまでになりました。特定国の単独行動は好ましいものではありません。そのためにも、国連安保理決議一四四一を受け、日本も更にこれを積極的に支持する姿勢を鮮明に打ち出すことが望ましいと思われます。その意味で、個人的には国連が決議一四四一を支持し協力する決議をするのが国際平和に貢献するのではないかと思われます。
話をイラクに戻し、米国等の軍事行動がイラクに行われたときにどうなるかに言及したいと思います。
米国は既にプランの一部をリークさせています。現在言われている軍事プランは、北部、南部、西部をまず掌握しバグダッドでの蜂起を期待する、蜂起がない場合にはバグダッド攻撃するというものです。米国は圧倒的に強力な軍事技術によって軍事行動の成功に自信を持っていると思います。ただし、戦闘がバグダッド市内で行われる事態に至った場合には、大規模な都市を軍事力で奪う戦闘は最近の軍事史上でもそう多いことではなく、困難に遭遇することも排除されません。
しかし、私個人の懸念は軍事行動後のイラク情勢です。イラク国民約二千二百万人、そのうち約六割がシーア派です。このシーア派は、過去、支配される側に立ち、宗教色が強いのでこれを中心に政権運営をすればイランのホメイニ政権的なものになる可能性もあります。したがって、米国としてはシーア派を政権の中心に据えることは困難であろうと思われます。
また、北部クルド人に関しては、イラク攻撃の際、強力な協力が期待されるトルコがクルド人勢力の強化には反対しています。こうなると依然二〇%のスンニ派を基盤にしなければなりませんが、しかし、この中にはサダム・フセイン政権の協力者がいます。これをどこまで排除するのか。欧州には既に人権擁護の観点から特定グループを糾弾する動きが見られます。軍事行動後のイラク体制の在り方については第二次大戦後の日本モデルが言及されたりもしていますが、イラクでは人種、宗教をめぐっても一体でなく、対立が続き、イラク情勢は日本よりはるかに複雑であり政治的安定は困難ではないかと見られます。
また、イスラム社会全体を見ますと、イラク攻撃はイスラエル要素が強く働いている。他方、パレスチナに関してはイスラエルの軍事行動が極めて顕著であるという不満が更に強化されると見られます。この不満はイスラム社会の一般市民に広範に広がり、イスラム社会政権を揺さぶっていく可能性も見られます。この動きは中東に限定されることなく、アジアのイスラム住民にも広がっていく可能性があります。
昨年九月十一日からの一連の動きは、テロを抑止することにありました。イスラム社会が反発を強めれば、テロの減少は困難ではないかと見られます。脅威を除去するため、武力を使用する必要のあるときはあります。しかし、これはあくまで例外です。平和は基本的に平和的手段によって確保されるべきものです。
イスラム社会が西側に不信を強める中、我々はこの不信を排除する手段を積極的に考える必要があります。イスラム社会の中で武力の使用を排し、西側社会との協調を図るグループ、人物との対話を図り、このグループの勢力助長を図るべきであろうかと見られます。
イラク攻撃が考慮される中、例えばイランのハタミ大統領への支援を推進することが単にイランのみならずイスラム社会との関係で望ましいと言えましょう。日本は中東に石油の九割を依存しております。また、この地域との経済的結び付きも次第に強くなっていきます。中東の安定は、日本にとり利益です。
米国のパウエル国務長官は、次のように新聞に寄稿しています。米国は、武力によることなく、国連の傘の下、イラクが武装解除を行うことを望んでいる。我々は、イラクとの戦争は望んでいない。我々は、平和的な武装解除を望んでいる。私もまたパウエル国務長官のこの文言を強く支持します。武力によることなくイラクの生物化学・核兵器の脅威を取り除く可能性がある限り、我が国もまたこの方向に向け努力を重ねるべきであると信じます。
どうもありがとうございました。
○参考人(山内昌之君) おはようございます。東大の山内と申します。よろしくお願いいたします。
私は、専門が国際関係史そしてイスラム地域研究であります。そうした立場から、現在焦点になっているイラク問題を取り巻く全体としての現在の国際環境、そして日本の置かれている立場について、まず最初の二十分においては大きな枠組みでお話しさせていただきたいと思います。
九月十一日以降のイラクも含めました中東と中央アジアにおきましては、現在、国際的な政治体制、国際システムの枠組みが大変大きく変わっております。変動しつつあります。現下のイラク問題に関しましても、こういう枠組みの大きな変化との関係でまず理解する必要があるというふうに私は考えております。
そもそも中東は、今のパレスチナ問題さらにイラク問題に象徴されますように、いずれも、パレスチナにしましてもイラクにしましても元々人工的な枠組み、人為的な枠組みによって作られた国家、地域でありまして、これが紛争の根源になっているというのは、歴史的に見ますと、オスマン帝国という国家が一九二三年に消滅いたしますが、そうした広大な地域を支配していたオスマン帝国の滅亡を経ましても今日に至るまで帝国の解体と再編という政治プロセスがいまだに完成していない、そういう不安定地域だというふうに理解する必要があろうかと思います。
さらに、もう少し広げて考えました場合に、もう一つの大きな隠れた帝国でありましたソ連が一九九一年に消滅いたしますが、このソ連の消滅によって中央アジアの国々が独立いたします。その後のチェチェン戦争、ひいてはタジキスタンの内戦、さらに、ナゴルノカラバフという小さな地域をめぐるアゼルバイジャンとアルメニアの紛争も、いずれもこれはロシア帝国の滅亡からソビエト連邦の消滅に続く帝国の解体と再編のプロセス、こうした一連の政治の過程が完了していないということを意味すると思います。
こうした中央アジアというイスラム圏の出現や、さらに昨年来のアフガニスタンの民主化、日本が深くかかわっているこのアフガニスタンの復興過程、このことによって、今現れている、我々の目の前に現れている現象を一言で言うと、中東という世界が広がっているということかと思います。
この大きな中東と仮に名付けた場合に、この大きな中東における現在働いている二つの大きな力というのは、正に中から生じているイスラム原理主義の力であり、あるいはイラクに象徴されますような大量破壊兵器の所有による国際的な安全保障に対する脅威というものが一方で働いております。そして、それは時にテロリズムなども伴っていることは皆様も既に御案内のとおりかと思います。それに対して外から、外からそれを抑止しようとしている、さらに、その抑止という大義名分なども通しまして権益を拡大しようとしているのが米国だという、このような大きな構図が存在するかと思います。
そうした大きな構図の中で、時としてその政治に対して大きな発言を求めていくのがかつての超大国であったロシアでありまして、ロシアは国内問題におけるチェチェンの問題と並びましてイラク問題に関して非常に強い関心を示しております。
これは、ソ連以来の伝統的な権益としてのイラクにおける石油への関心、さらに石油や武器の輸出入や援助にかかわるまだ未回収の債権の回収、こうした利益をめぐってロシアは米国との間に一線を画しているということは、昨今の国連決議一四四一の、安保理決議一四四一の採択の中で一番あらわになった米ロ関係の対立点ではなかったかと思われます。
さらに、アラブの世論について少し見てみたいと思います。
アラブの世論が今日の米国によるイラクに対する政策について持っている意識というのは、一言で言えば大きなる猜疑心、懐疑心というべきものでありましょう。これは、埋蔵レベルにおいて世界第二位の有数な石油エネルギー資源国であるイラクを制圧して米国が石油エネルギーの生産と供給でも主導権を取るのではないか。もう少し敷衍するならば、これはOPECという今のアラブ産油国によって仕切られている石油の生産供給調整システム、そのことによって得られているアラブの強い政治的な力の根源をアメリカは奪いかねない、そうしたことに対する懐疑心が行き渡っているかと思われます。
米国のイラクに対する強硬な姿勢というものはいろいろあろうかと思いますが、その背景には、一つにはやはりロシアの力の相対的な低下というのは大変大きいと思います。とりわけ、NATOの東方拡大に伴うロシアの言わば妥協的な姿勢、さらにロシアのG8加入などによってロシアの力というものが実際に米国の関係において非常に弱まっているということは間違いありません。
もう少し、私は、今後検証しなきゃならないのは、アメリカのそうした、例えば中央アジアにおけるアフガン問題をめぐって行われている積極的な軍事的な駐屯政策、さらにそれをめぐって中国に対する牽制を行っておりますが、それがアメリカの戦略としても語られるユーラシアに対する積極的な進出なのかどうか、この点は今回の恐らくイラクの問題を考えていく際に、私は少し中期的に慎重にアメリカの動向を見ていくポイントではないかと思っております。
いずれにしましても、ロシアはチェチェンの武装勢力、この間のモスクワの事件でも御案内のとおり、そうしたチェチェンの武装勢力との対決を米国が反テロ戦線の一環として認知する限りにおいて米国のユーラシア進出を一部黙認できるわけでありますが、しかし、固有の利益、すなわちチェチェンを経由した石油パイプラインの問題、石油利益の問題、さらにもう一度申しますが、イラクにおける先ほど触れたロシアの伝統的な権益、あるいは新たに今獲得しつつある、サダム体制の下で獲得しつつある権益を侵害されることに関しては米ロ間において利益の不整合が起きますし、またロシアはそうした侵害されることを一方的に黙視、黙過することはないように思われます。
他方、日本にとってこうした地域をどのようにまずとらえるのかという問題でありますが、日本には、まず何よりも昨年の九・一一以降のテロ特措法の成立以降、特にタリバン政権とウサマ・ビンラーディンとの結合に象徴されましたアルカーイダなどのテロリズムのネットワークがユーラシアの南部から中東に広がっている現実に直面したわけであります。
こうしたテロリズムネットワークが私たちにかいま見せてくれたのは、中東という地域の拡大でありまして、その大きな中東という、東はアフガニスタンから更に一部は中央アジアも含めてイラク、パレスチナに至っていく、こうした大きな世界をどうとらえるのかということについて、日本は国際協調を図りながら国益を守る新たな外交的な戦略が必要とされているというのが現状ではないかと思われます。
私は、かりそめに、これはかつて日本外交でユーラシア外交あるいはシルクロード地域外交というような名称が使われ、戦略的な対応が図られた地域と重なっておりますが、そうしたひそみに倣うならば、これは新たな中東シルクロード外交とも言うべき戦略が必要とされているのではないかと思います。しかし、実態として、日本は既にこの一月のアフガン復興東京会議においてこの方向に実態としては踏み出しております。
そして、例えば、二月から三月以降様々なレベルにおけるミッション、あるいはタスクフォースがアフガニスタンを訪問し、国際的な動きに先駆けて日本は積極的にアフガンの社会基盤の再建あるいは民生の安定、すなわち医療、教育、技術、地雷除去、農業支援といった形で民生の安定などについて積極的に提言したわけであります。これは既に国会においても慎重かつ広範な範囲にわたって審議され、その多くは今政策として実施されているわけであります。
一方において、テロ特措法によって日本政府は米国に対する後方支援を行うことになりましたが、これはただ単に日本外交あるいは日本の対外政策が日本の石油エネルギーの安全保障という、石油の安定供給だけを意図しているということではなくて、むしろそうした今触れました大きな中東の地域の安定にも責任を持つという意思を世界に表明したものとして、特にアフガニスタンを始めとして現地において私が受けた知見あるいは感想から考える限り、高く評価されているということであります。
こうした新しい外交展開の中で、イラクを始めとする中東の様々な重要性をかりそめに私が整理いたしますと、まず第一に何よりも、ただいま孫崎参考人の方から詳細な御説明がありましたが、日本は何よりも国連決議一四四一に見られる平和的なイラク問題の解決を努力する、そのために何をもっても第一に優先されるのは、イラクの大量破壊兵器の廃棄に向けた国際圧力への積極的な参加、これが第一に強調されるべきかと思います。
第二は、中東、特にアラブ・イスラム世界に由来する国際テロリズムの脅威の除去ということであります。
三番目には、日米関係という最も重要な二国間関係と並びまして、そうした同盟関係と並びまして、しかしながら日本にとって重要な両地域間関係のかなめとしまして、特に石油エネルギー安全保障の問題として、我が国はサウジアラビアを始めとする湾岸諸国との友好増進ということを一貫して国是としてきております。したがって、三番目には、サウジアラビアなどの湾岸諸国との友好増進を通した石油、天然ガスなどエネルギー安全保障の確保という観点をイラク問題に関しても私たちは忘れてはならないと思います。
四番目、これは既に日本が行っているところでありますが、イスラエル・パレスチナ紛争や地域の貧困、ひいては人口問題といった長期的な問題の解決に向け、そしてイラクのような一種の超軍事国家のような存在を長期的に消滅させていくためにも、ソフトパワーの活力に対して、中東のソフトパワーの活力を育て、それに対する援助を図っていくべきかと思います。
最後に、五番目といたしまして、イランとの関係の拡大と強化ということかと思われます。アザデガンの油田の開発などを通して、ハタミ大統領やイラン穏健派の改革路線を支援するということは、これは日本が米国とイラン関係の緊張に満ちた関係改善の一助になることが期待されます。
さて、イラクに少し特化してお話しさせていただきますと、もし仮に、この国連決議一四四一が不幸にしてそこで示されているタイムテーブルに沿って進まず、不幸にして米国によるイラクに対する軍事行動があると仮に大きく仮定した場合に、不幸な事態でありますが、そのときに、確かに先ほど来、孫崎参考人が詳細に陳述されましたように、もしこれが国連決議を更に踏まえて行われ、そして早期にフセイン大統領を排除できるということになるのならば、これは戦後のイラクというものが安定化するという可能性は決して否定できないわけであります。
しかし同時に、こうした戦争という行為、軍事行動というのは予測できない結果をもたらすわけでありまして、例えばサッダーム・フセインその人を捕捉できない場合、こうした仮定を重ねていきますと、仮定に仮定を重ねるということは慎重でなければなりませんが、国内は混乱に陥り、イラクが更にもっと深い内乱若しくは混乱の道を歩み、中東全体が不安定化する可能性をなしとしないわけであります。もちろん、先ほど申したように、世界第二の有数の石油エネルギー資源の埋蔵国であるイラクの紛争が中東全域に拡大するなどというようなもしシナリオが起こり得るとした場合に、これは世界全体の影響は深刻なものとなることは間違いありません。
いずれにしても、日本にとって望ましいシナリオ、そして日本があくまでも追求するべきシナリオは、サッダーム・フセインが大量破壊兵器の廃棄を完全に実施すること、そして米国による軍事行動が行われないような状態をサッダームその人が積極的に受け入れること、このことをおいてないのであります。これは、テロを含めまして中東の問題、すなわちイスラエル・パレスチナ紛争と密接なかかわりを持っている中東の和平の問題全体を解決していく場合にも私は大変重要な前提になろうかと思っております。
反テロルというのは、広い意味でこれはイラクにおける大量破壊兵器の開発疑惑というもの、この開発された可能性が高く、イラク自身は廃棄している、持っていないと言っておりますが、その実態は今後の査察を通して明らかになろうかと思いますが、こうした大量破壊兵器の脅威というものがテロリズムと結び付く、様々な形で、これこそが国際的な安全保障や秩序に対する脅威なのでありまして、その際最も恐ろしい夢というのは、悪夢というのは、やはりこれが比喩的に申しますと、核というものを含めた形で、核や大量破壊兵器の不安定な拡散に向かう第一歩になるのではないかということを恐れるわけです。この点で、イラクの自制ある態度を日本はどこまでも求めていくべきかと思われます。さらに、そうした反テロルというのは普遍的な命題であります。
もう一方、パレスチナ問題やイラク問題というのはそれ自身としては地域に固有の問題です。しかしながら、両者の問題は互いに関連しておりまして、双方の解決は不可分に結び付くところがあります。
最後に、日本としてこれまでの貢献、更に今後なすべきことについて簡単に触れて終わらせていただきます。
日本は、パレスチナひいてはこのイラクも含めてそうではございますが、中東和平プロセスに関して、一九九一年のマドリード会議以降、中東和平プロセスの環境部会の議長国であり、水資源部会の共同議長国、更に環境ワーキンググループの議長国であります。そして、折に触れて日本は中東和平に努力してきたわけでありますが、特にイスラエルとパレスチナの双方に圧力を掛けて、双方の関係を融和する努力、これが必要になってくると思います。すなわち、アラブ穏健派諸国と連携しながら、イラク問題の複雑化を避け、パレスチナ国家の独立宣言と民族自決に向けて米国を積極的にそうした方向に同意させていく努力、これに対して日本は粘り強く取り組むべきかと思います。
そのためにも、私は最後に強調しておきたいことは二つあります。
それは、やはりイラクも含めたイスラム・アラブ世界の中に、やはり改革や民主化の機運を促すようなNGOあるいは学術機関あるいは性差、ジェンダーを超えたような教育の普及といったようなソフトパワーの支援、これをやはり日本としては積極的に求めていくべきであろうかと思います。
第二は、日本は、欧米世界がイスラムの歴史、アメリカに端的に現れておりますが、アメリカに代表されるような欧米の世界がイスラムの歴史や価値観を虚心に理解する場を設定し、そうしたプロセスを通して、テロを否定し大量破壊兵器の開発などを否定する論理を欧米的価値観とイスラム的な価値観との共存の中で位置付ける哲学や世界観を正にイスラム世界の中から、知識人から内外に発信してもらう、こうしたようなことに関する平和的な取組。日本の平和外交というのは、恐らくこうした九・一一の教訓を直ちに軍事による教訓に結び付けるのではなく、こうした対話と交流による繁栄をイスラムと非イスラムが協力して創出することを説いていく、こうした様々な意味での、仲介という言葉はもし大仰に過ぎるとするならば、調整あるいは手伝っていく、そういう点で日本の役割は大きいかと思います。
イラク問題を含めた全体としての枠組みについての感想を述べた次第でございます。
○参考人(横田洋三君) 中央大学の横田洋三でございます。座って話をさせていただきます。
私は、国際法それから国連法などを専門に研究しております。今日はイラク情勢等というテーマでお話をさせていただきますが、その中でも国際法、とりわけ国連法との観点でこの問題がどのように分析できるかということをお話しさせていただきたいと思います。
事務局から事前に配っていただきました資料の真ん中辺に、十二ページから二十三ページ、私が執筆しました国連の下での安全保障の体制についての教科書の一部がございます。今日はその中には余り詳しく触れませんが、随時御参照いただければ幸いでございます。
今回のアメリカによる対イラク強硬政策の背景というものをまず考えてみる必要があるだろうと思います。私の考えでは三つあるかと思います。
一つは、アメリカの安全保障に対する脅威、これへのアメリカの反応ということでございます。御存じのとおり、第二次大戦後長く続きました冷戦構造の中では、アメリカへの脅威は主にソ連、社会主義国、共産主義国という形でもって説明されておりました。それに対する対応策をアメリカはいろいろと検討し、実施したわけでございます。冷戦後の状況におきましては、それが国際テロ及びテロ支援国家がアメリカへの脅威だというふうに変わったということでございます。しかし、他方で、対象は変わりましたが、アメリカへの脅威にアメリカが対応するというその図式そのものは実は根本的には変わっていないように思います。
第二番目の背景は、アメリカ及びアメリカ人に対する武力的な攻撃に対しては自分たちの力で守るという安全保障観、防衛観でございます。国連憲章で言いますと、憲章の五十一条にあります個別的及び集団的自衛権というものでございます。
アメリカは、まず、よく単独主義、一国主義ということが言われますが、その根底には、自国の利益、自国の国民の生命、身体、財産はアメリカの力で守るのだという自衛の観念が貫かれております。さらに、集団的自衛権という考え方で、アメリカ一国だけではなくて、そこに同盟国も巻き込もうとする、そういう考え方もございます。これが、NATO諸国あるいは日本のような安全保障条約を結んでいる国、アメリカから見て同盟国と考えられる国と協調してこういう脅威に立ち向かおうという、こういう考え方であるかと思います。
三番目に、アメリカはその場合、アメリカへの脅威にアメリカが立ち向かうということは、実はアメリカへの脅威だけではなくて、アメリカと価値を共有し様々の利益を共有する同盟国の利益にも合致する、そして国際社会全体の利益にも合致するという、こういう割合楽観的なアメリカ人の、アメリカの国益イコール同盟国の利益イコール国際社会の利益という、この図式がアメリカ人の中にあります。ですから、アメリカが自国の利益を守ろうとすると、それに対して国際社会でまともな国であればアメリカと一緒になって戦うであろうという一つの楽観的な期待感があるように思われます。
アメリカが認識する具体的なアメリカに対する脅威にはどのようなものがあるかといいますと、話はやはりイラクとの関係では、一九九一年の湾岸戦争の際の安保理決議に対してイラクがどう行動をしたかというところにさかのぼる必要があります。
もちろん、イラクがクウェートに侵略して、その後の湾岸戦争というのはアメリカが中心になりまして行った軍事行動なんですけれども、これ自身ももちろんアメリカに対する脅威、中東の安全保障に対する脅威、国際社会に対する脅威ではあったのですけれども、アメリカにとって最も深刻な脅威は、アメリカの国土、アメリカ人の生命、身体、財産、こういうものに対する直接的な脅威という意味からいいますと、やはりイラクのような国が大量破壊兵器を開発し、そしてアメリカに対して使うことができる状況になるということであるかと思います。
そこで、湾岸戦争でアメリカは、一応侵略軍であるイラク軍をクウェートから撤退させました。これで一応侵略に対する制裁は終わったわけなんですけれども、その後もイラクに対する厳しい条件を付けた国連決議、これは後ほど少し詳しく分析いたしますけれども、とりわけ決議六八七、一九九一年の六八七という決議でございますけれども、こういうものを突き付けてイラクを非武装化する、事実上非武装化するというそういう考え方を取ったわけでございます。したがいまして、この決議によってイラクは大量破壊兵器の開発、保有そして配置、こういったことが一切禁止されておりました。
ただ、もちろんですけれども、アメリカも国際社会も、イラクにこういう要求を突き付けてもイラクがそのとおり守るかどうか分からないということで、更にそれを守らせるための仕組み、とりわけ国際査察というものを予定し、それを実行しようとしたわけでございます。
ところで、その後に起こった一連の出来事、国際社会での出来事を見ますと、アメリカの在外公館、例えばナイロビは、ダールこれはエルとなっておりますがエス・サラーム、タンザニアの首都ですけれども、こういうところに対するテロ攻撃、それからアメリカの軍艦に対するテロ攻撃、さらにはパン・アメリカン航空機撃墜事件、これはロッカビー事件と言われておりますが、こういう一連のアメリカを標的としたテロ攻撃に対して、アメリカはますますアメリカに対する脅威が世界の中で醸成されているという、そういう認識をしたわけでございます。
それに対するアメリカの政策上の答えは、イラン、イラク、シリア、リビア、北朝鮮、キューバ、スーダン、この七か国がテロ支援国家であるということを指定して、これらの国に対する経済制裁を中心にした制裁措置を取るという形での対応でありました。
ところで、昨年の九月十一日の同時多発テロ、これが最終的なアメリカに対する決定的な攻撃、そして脅威になりました。アメリカは、第二次大戦のときの真珠湾攻撃以降、真珠湾攻撃もアメリカの本土ではなくて遠く離れた太平洋の島で起こったわけですけれども、アメリカの本土が攻撃されたという意味ではもうアメリカの歴史始まって以来の大きな出来事になったわけでございます。このことに対してやはりブッシュ政権はきちっと対応しなければアメリカ国民の大統領に対する信頼が崩れてしまうということで、この事件が決定的になって、それまでずっと続いていた湾岸戦争以降の一連のアメリカに対するテロ攻撃、これにも全部答えを出さなければいけないという政策になったのではないかと思います。
この場合の湾岸戦争を終結させました国連安保理決議六八七、これは一九九一年、今から十一年前の決議でございますけれども、これが今回の決議一四四一でも依拠されております。これが出発点でございます。
どういうことが規定されていたかと申しますと、第八項では、すべての生物化学兵器の在庫及び研究、開発、製造施設の破壊ということが規定されております。それから、第九項では、第八項の施設等の所在地、数量、種類の申告義務及び特別委員会による査察の実施、長距離ミサイルの破壊、こういったようなことが規定されております。さらに、十二項では、核兵器の研究、開発、製造の禁止、十三項では、核兵器関連施設の国際原子力機関IAEAによる査察の実施、そして三十二項には、国際テロ行為の実行、支援の禁止ということがございます。
この決議は、国連憲章第七章の下で下されておりまして、国連の全加盟国を拘束しますし、イラクをも拘束するというものでございました。しかし、イラクに一層この決議の内容を遵守させるために、この決議はイラクに対してこの決議を受諾するようにと要求します。
そのイラクの外務大臣の書簡、一九九一年四月六日の書簡、これはこのような内容になっております。イスラエルには核兵器等の大量破壊兵器の保有を認めつつイラクに当該兵器の撤廃を要求するのは二重基準である。次に、安保理決議六八七、当該決議ですけれども、これはイラクの主権、独立及び領土保全のあからさまな侵害である。三番目に、しかし決議六八七、一九九一は受諾せざるを得ない。このイラクの外務大臣の書簡の中に明白に見取れますように、イラクはただ力で押されたので負けてこの条件を受諾したということではなくて、自分たちの論理を一応展開しております。筋の通った論理かどうかは別にして、そういう主張をしております。こういうところに実はイラクのしたたかさというのを見取ることができるように思います。しかも、そのしたたかさは実際にその後の行動となって現れてくるわけです。
一九九一年に実施されたIAEA査察では、イラクの核兵器開発が実際に行われているということを証明します。それ以後、イラクは更に新たな大量破壊兵器の開発の証拠を集められることに恐怖を感じまして、国連の特別委員会、UNSCOMといいますが、それから国際原子力機関による査察をあらゆる方法で妨害し始めます。これにつきましては、資料の四十ページから四十一ページにございます決議七〇七、それから決議一一一五、それから決議一一三七の要約をごらんいただきますと分かりますけれども、イラクが継続して国連決議の要求を拒否し査察に協力していない、決議違反を行っているということを繰り返し決議で言及しております。一九九八年以降、イラク政府は徹底的に国連の査察に非協力になりまして、それ以降今日までイラクは大量破壊兵器の査察を認めないでまいりました。二〇〇一年三月、昨年の三月、ブッシュ大統領は議会演説で、こういった状況を念頭に、イラク、イラン、北朝鮮をならず者国家、無法国家あるいはローグステーツと呼んだわけです。
昨年の九月十一日、同時多発テロに関連しまして、その翌日の十二日に安全保障理事会が採択しました決議一三六八というのは、次のような文言を含んでおります。前文では、テロ活動に対してあらゆる手段を用いて戦うことを決意し、個別的、集団的固有の権利を認識し、そして第三項では、すべての国に対してテロ攻撃の実行者を法に照らして裁くために緊急に共同して取り組むことを求める。この文言はやや抽象的になっておりますが、アメリカはこれを盾にテロの撲滅という口実の下にある程度フリーハンドに軍事行動が取れる、テロの実行犯を逮捕し処罰する、そのために軍事行動を取るという、そういう口実を安全保障理事会決議の文言の中に見いだしているわけでございます。
二〇〇二年、今年の三月及び七月には、イラク、それから国連の間の、イラクと国連との間の協議が行われておりまして、そこで国連監視検証査察委員会、UNMOVICと略称されておりますが、これによる査察を国連が要求したわけですが、イラクはこれを拒否し、この話合いは不成立になりました。二〇〇二年十月には、アメリカ議会がブッシュ大統領に対して対イラク攻撃を承認する決議を下します。こうして、今回の安保理決議一四四一につながるわけでございます。
この決議は、前文で、イラクによる安保理決議違反行為、これを国際の平和及び安全に対する脅威であると認定しております。これは、国連憲章第七章の下で安保理が行動が取れるということの一つの前提でございます。さらに、前文では、安保理決議六七八はイラクに関連決議を遵守させ、同地域における国際の平和及び安全を回復するために加盟国に対しあらゆる必要な手段を取る権限を与えたことを想起しとなっておりまして、ここにもまたいわゆる授権規定に該当するような、アメリカの解釈を許すそういう文言が含まれております。そのほか、前文の中には、国連憲章第七章の下に行動しということが明確に書かれておりまして、第七章にあります四十一条の経済制裁、さらには四十二条の軍事制裁を示唆する言葉が見付けられます。
さらに、第一項では、安保理決議六八七の第八項から十三項までの違反行為があったということを認定しまして、三項では、大量破壊兵器の開発計画のすべての側面に関する正確、十分かつ完全な申告の提出を三十日以内に行うようにと、これは期限付でございます。さらに、UNMOVIC、IAEAの査察が即時、円滑、無条件に行われること、これは四十五日以内という限定がございます。そして、それを六十日以内に報告するように。さらに、十二項では、UNMOVICとIAEAが違反行為があったということを報告したときには即時に安全保障理事会を招集する、そしてこの義務違反によってイラクは深刻な結果に直面するという表現にまでなっております。
この決議一四四一は、通常の外交上の文書でいいますと、いわゆる最後通牒です。これらの要求が認められなければ戦争をするという、第二次大戦以前の国際関係においてよく使われた最後通牒でございます。これを国連決議という形で国連からイラクに突き付けたということ、これが非常に意味を持っております。もう一つは、これが全会一致で採択されたということです。途上国やアラブに同情的あるいはアラブを代表するような国が入る、そういう安全保障理事会で全会一致で採択されたというところに非常な重みを持っております。
それでは、アメリカによる対イラク軍事行動は国際法的に正当化できるのでしょうか。アメリカは自衛権の行使ということを言いました。しかし、武力攻撃が前提になっておりません、今回のイラクに対する攻撃は。それから、緊急性も存在しません。その意味では、これを自衛で正当化することは不可能だと思います。
それから、テロ支援国家としてのイラクに対する攻撃としてはどうか。これは、テロ支援国家であるということを明白に示す証拠が今のところ我々の目の前に示されておりません。しかも、テロ支援国家に対して一方的な軍事行動を取ってもよいという国連憲章上の根拠はございません。むしろ、一般的に国連は加盟国に対してこの種の軍事行動を禁止しております。したがいまして、安全保障理事会が憲章第七章の下でテロ支援国家などに軍事行動を取るようにということを認める決議を下す以外には、アメリカが一国でこういう行動を取ることは許されないというのが国際法的な考え方であると思います。安全保障理事会決議一四四一はアメリカによる一方的軍事行動を容認しているかという問いに対しては、答えは否定的でございます。
アメリカの軍事行動のためには、更に新たな安保理の具体的な授権決議が必要であるというのが私の見解でございます。しかし、アメリカは、このような決議不在のまま軍事行動を取る可能性は十分にあります。この決議が通ったことを踏まえたブッシュ大統領の発言の中には、イラクが安保理決議に完全に従わなければアメリカ及びその他の国々がサダム・フセインを武装解除する、国連が武装解除すると言っていないところが非常に意味深長でございます。つまり、アメリカは、国連が容認決議を下さなくても、あるいは制裁決議を下さなくても、アメリカとアメリカと一緒に戦う国々とで武装解除するという、そういう決意を示しているわけでございます。
残念なことに、アメリカのような唯一の超大国、そして安保理で拒否権を持っている大国がそのような行動を取ったときには、現在の国際社会の仕組み、とりわけ国連の安保理の仕組みの下では、仮にそれが違法であったとしてもこの国に対して制裁を下すことはできない、そういう現実が目の前にございます。
このアメリカの一方的な行動は、しかし国際テロの脅威、あるいは無法国家による大量破壊兵器の開発、保有の脅威、これは確かにアメリカに対する脅威であると同時に国際社会全体、日本に対する脅威にもなります。
国連憲章は、こういう大規模なテロ集団、あるいは無法国家による大量破壊兵器の開発、保有、そういう脅威に対して、国連憲章ができたときには想定していなかったわけですから、こういうものに対してこれからどのような対応をしていくかという大きな問いに答えなければいけない状況に直面していると思います。アメリカの一方的な行動を止めようとするのであれば、それに代わる国際的な仕組みを作るというイニシアチブを国連等で取る必要があります。日本には、そのような行動のイニシアチブを取る大きな責任があるのではないかというのが私の見解でございます。
どうも御清聴ありがとうございました。
○広中和歌子君 三人の参考人の方々、本当にありがとうございました。
今日のこの参考人質疑というのは、私ども、前回行いましたテロ特措法の二度目の延長が閣議決定されたことに関して参考人の方々に御意見をお伺いしようと、そういうことで設定されたものなのでございますが、まず孫崎参考人にお伺いしたいんです。
このテロ特措法でございますが、昨年の九・一一のあのテロをベースにして作られた法律でございますが、アメリカなどはテロとイラクとのかかわりをいろいろな形で指摘しているわけで、もしこれが安保理などで関係付けられた場合には、テロ特措法が今後あり得るかもしれないイラク攻撃に対して援用される可能性があるのかということをお伺いします。
それから、先制攻撃という言葉が非常によく聞くわけでございますけれども、あるアメリカの人に聞いたんですけれども、先制攻撃の意味なんですけれども、それは要するにあり得る災害なり戦争なり攻撃なりに対して準備をするということであるというような言い方をしているんですね。ただ、非常にアメリカはその準備というのを真剣にやりますから、場合によって例えば北朝鮮から譲歩を引き出すというようなことも結果として起こりますし、それからイラクに対しても国連決議一四四一に持っていくようなプレッシャーを掛けていくというようなことで、なかなか面白いなと。面白いという言い方はよくないかもしれませんけれども、こういったような非常に力の外交というものに非常に関心あるわけですけれども、先制攻撃の意味についてちょっとお話しいただけたらと思います。
それから、何人かの同僚議員も触れているんですが、山内先生の中東シルクロード外交というのは非常にイメージとしても分かりやすいし、大変日本がそういうことをできたらばすばらしいと思いますし、横田先生も国連の無力に代わる新たな行動のイニシアチブとして日本がするべきこともあるんではないかというようなこともおっしゃっておりますけれども、日本なりほかの国、国連、UNDPも含めてですけれども、することは十分あるにいたしましても、やはりアラブの国々、その中からの力というものが出てこないと駄目ではないかなと思うんです。
この時代の風、ソフトパワーの充実をというふうにおっしゃっていますけれども、良質なアラブの知識人の層、そういう人たちがイニシアチブを、つまりアラブ社会をより豊かな、より国際社会と共存できるような体質に変えていくためのイニシアチブを取れるような状況というのはあるのかどうかということを教えていただければと思います。これは山内先生にお伺いいたします。
○参考人(孫崎享君) 国連の方がテロとイラン、イラクの関係が明確になれば、テロ特措法の適用というのは何の問題もないであろうと思います。
ただし、私は、冒頭申し上げましたように、今回のイラクに対する決議は、国連の安保理全部で、全会一致でやっているということ、それから国際社会がイラクに対して大量破壊兵器をなくするという圧力を更に強化していく必要があるということ、この点からいけば、国連の安保理を受けて日本の国会がどういう形で対応するか、新たな法案を出すことがいいのかどうかということはお考えになっていただいた方が国連、国際社会の平和貢献に役立つのではないかと、このように思っております。
次に、テロと先制攻撃の方なんでございますけれども、テロの関係者から見ますと、明らかにこれは武力的な手段で排除することを考えております。九・一一の後、余りにも打撃が激しいということ、そしてこれを予防する、水際で予防するというのは非常に難しい作戦でございますから、したがって前でもってこれを排除する、物理的な手段で排除するということは、テロの関係者からは出てきた発想だと思います。ただ私、この考え方が、先ほど申し上げましたように、中間的な国、イラン、イラク、北朝鮮というような国に対して抑止が、抑止の効果が働かないかというと、私は、ここは働く可能性があって、もう少し理論的に考えてみる必要があるんではないかと、このように思っております。
○参考人(山内昌之君) 御指摘のことについて申しますと、アラブの世界にやはりそれは良質な知識人はいるわけでございまして、何とか欧米、ひいては日本との対話などを通して自分たちをもっと更に客観化しようとする人たち、そういう人たちはやはりいらっしゃいます。
例えば、日本とのかかわりについて申しますと、私も関係しましたけれども、今年の三月に、例えばバーレーン、湾岸諸国の一つであるバーレーンにおいて、日本とアラブの間の一種の文明の対話、アラブ諸国プラスイランも含めましてそういう知識人あるいは、プロパーの政治家の方はいらっしゃらなかったと思いますが、そういう人たちと日本からも人が出掛けていきまして議論しました。そういうところでは日本の経験あるいは日本が期待していることなどについての意見が向こうからも寄せられました。引き続きそれは今度の、来年の三月の上旬に今度は東京で行われることになっております。
こういう種の対話の努力というものは常に行われておりますし、そういう中から、今、先生御指摘のような知識人の輪の広がりと、それだけではやはり駄目なのでありまして、そういう知識人や、私たちのような教師などのかかわりで多くの若い世代、何といってもやっぱり次の世代を担う若い人たちにそのバトンをタッチしていかなければいけませんから、そういう考え方や理念というものを幅広く学生などに、あるいは若いボランティアたちに広げていきたいと、こういうふうに思っております。
また、ささやかながらそうしたことに、一部ですが、取り組んでいる者たちが日本の方にも多いということでございます。
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