東アジアの安全保障と日米安保体制−現状と課題
参議院議員 広中和歌子
<冷戦後の世界情勢の変化と問題点>
20世紀は戦争の世紀といわれるように、我々人類は2つの世界大戦とその直後に始まる核の均衡による東西冷戦を経験し、そしてその間、朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラン・イラク戦争に代表される世界各地で起こる米ソの代理戦争が続き、多くの人々が紛争に巻き込まれ苦しんできた。
日本は第二次大戦後、冷戦構造のなかで平和憲法を堅持しつつ、米国との間に安全保障条約を結び、外交安保の面でその判断と責任の多くを米国に依存してきた。そして世界の紛争に巻き込まれることなく防衛支出はGDPの1%にとどめ、自らは経済の回復と成長に専念することができた。その結果、世界第二の経済大国となったといえる。
その間、ベトナム戦争の後遺症で経済の低迷に苦しむアメリカからは、日本に対してアメリカの核の傘ただ乗り論などがあり、一部アメリカの議員からは、我が国は別の形で、例えばGDPの1%を途上国支援にまわすといった国際社会への貢献が求められたものの、日本外交は全体としてあまり顔の見えぬ、後手にまわる対応に終始してきたといえる。
日本が国際貢献で最も厳しい対応を強いられるようになったのは、1989年のベルリンの壁崩壊以降であった。一時期 特にリオ・サミット開催に向けて地球環境問題を人類共通の敵として世界が協調し合うといったムードもあったものの、イラクのクエート侵攻に端を発する湾岸戦争では、日本は国連に容認された多国籍軍に参加する人的貢献ができぬまま結局資金を提供するにとどまった。これは赤字財政を抱えていた当時のアメリカにとっては有難い貢献となったに違いないのだが、お金だけの貢献に対して多くの日本人には忸怩たる思いがあったといえる。
<アメリカの対応:クリントン政権からブッシュ新政権へ>
湾岸戦争後誕生したクリントン政権は、社会主義国中国と北朝鮮を国際社会の場に引き出すべく、いわゆるエンゲージメント政策をとり、中国へはWTOへの加盟を、北朝鮮へは韓国の金大中政権の太陽政策等を支持してきたが、2001年に政権の座についたアメリカのブッシュ新政権は、冷戦後の再来と思わせるほど、中国、なかんずく北朝鮮等に対して「悪の枢軸」と名指しして挑発的路線をとり始めていることが気にかかる。ブッシュ大統領の側近の多くは父親ブッシュ政権下で冷戦を経験した人達であり、中国、北朝鮮など社会主義国への強行な姿勢と反比例して、アメリカの対日政策はより緊密なものになりつつあることを日本はむしろ複雑な思いで受けとめるべきである。
ブッシュ新政権に国務副長官として参加しているアーミテージ氏などによる米国防衛大学国家戦略研究所の特別レポート(2000年10月)によると、日本を戦略的パートナーと位置づけ「平等な関係」を求めているが、さて「平等なパートナー」とは何を意味するものなのか、日米でじっくり話し合う必要がある。アメリカは武力行使のレベルの平等性までをも求めているようであるが、日本はそれにどのように応じるつもりなのか、また、日本が東アジアの平和と安定に日米安保を通じてどう貢献するか、日本側独自の考えをはっきり示すべきである。その際、アジア太平洋の平和と安定のために日本がこれまで行ってきた世界で最大規模のODAやアメリカ軍への基地提供など米国との協力や補完の関係についてアメリカ側に充分な理解と評価を求めるべきである。
日本が現憲法下でアメリカに対して行ってきた最大の貢献は基地の提供であり、いわゆる思いやり予算である。アメリカがこの極東地域において、中国と北朝鮮を「競争的相手」と位置づける以上、また、ロシアを引き続き牽制し続けるという意味においても、米国の世界戦略にとって、南北3200Kmに亙ってロシア、中国、朝鮮半島に寄り添うように存在し、遠く東南アジア諸国を俯瞰する日本列島上の米軍基地の地政学的価値は、潜在的により高まると考えられる。日本にとっても防衛上、中国や北朝鮮等のアジア諸国との関係においても、在日米軍基地の存在意義は決して小さいとはいえないが、基地の適性規模への縮小を求め更なる話し合いをするべきである。特に、沖縄が戦争中に被った筆舌に尽くしがたい苦難と、戦後も日本における米軍基地の75%を負担している事実に思いを深くすべきであり、日本がアメリカの独自の軍事戦略に一方的に巻き込まれることは絶対に避けるべきである。
しかし、わが国も自国の安全についてより自立的に守る姿勢も大切である。特に我が国の沿岸において、密入国者あるいは不審船警備のための海上警備行動が必要であるが、沿岸警備隊と海上自衛隊の共同作戦も、今すぐ準備する必要があるのではないか。その際、当然これまでの装備から新しい戦術に沿った組織や兵器、輸送体系を作っていくことが大切である。目下政府が作成中の緊急事態法案が、日本と日本人の平和と安全が様々な角度から与野党で検討されることが必要である。
<21世紀の安全保障>
冷戦後、湾岸戦争を経て、世界は決して平和ではなく、むしろ地域紛争や国内テロが多発する中、こうした他国の問題にどこまで関わり、いかに対処するべきか、世界の中では未だにコンセンサスは生まれていない。国連が充分に本来の機能を果たし得ぬまま、突出した軍事力を背景に、パックスアメリカーナへの不満も少なくない。
そうした中、EU諸国は着々と地域統合と市場の規模の拡大を計り、軍事の面でも経済の面でも大きなブロックを形成し、他方、アメリカは、特にブッシュ新政権下ではFTAAを中心に中南米への傾斜を強めるのではないかと予想された。しかし、昨年9月11日のアメリカ本土、しかもニューヨーク貿易センタービル等への同時多発テロによって、アメリカ外交政策は大きく転換し、世界に存在するテロ組織やテロ支援国家への反発を強め、防衛力の増強を計りつつEUや日本に対して共に闘うべく協力を求めている。しかし、同時多発テロは幾つもの巨大ビル群を瞬時に破壊、多くの人々を殺傷したが、その犯行にはミサイルも核も必要ではなかった。まさにIT時代の時間・空間・国境を超える新しい形の戦争であり、地球規模での人間の安全保障が問われた事件であった。
こうした動きの中で世界を眺めると、南北の経済格差はかつてより増大しつつあり、貧困、人権侵害、テロ、麻薬、難民、感染症、核兵器拡散など、新たにグローバルな課題が世界には山積している。地球環境問題も21世紀にはより大きく顕在化することが予想され、そこから更に貧困、難民といった悪循環につながっていくであろう。
こうした地球規模で広がる問題がテロを生み出す土壌となっていることに、世界は十分に思いを至すべきであり、これまで多くの国々が地道に行ってきたODAに新たな光を当て、それをより充実させる時に至っている。わが国のODAの規模と質の更なる向上が望まれる。又、経済の面でも、途上国に直接投資を行い、工業化を助けると共に、自由貿易によって経済を活性化させるという、先進国としての更なる役割も大切である。
<アジア太平洋安全保障体制の確立を>
冷戦後、日米安全保障は引き続き日米関係の基軸として位置づけられているが、その目的やあり方は、冷戦中とは異なることは当然である。それまでのソ連その他の国々からの脅威への対処という側面から、アジア太平洋全体の危機管理の側面を持つ。
そうした中で、安保を基軸とした二国間同盟から多国間協調体制へ、そして、仮想の敵を意識した戦術から、貧困、人権侵害、テロなどの地球的課題に包括的に対処する人間安全保障の戦術へと移行すべきである。そのための枠組みを、アメリカ、中国、ロシアを含むアジア太平洋地域の対話を通じて、広く関係諸国と共に作って行くことに、日本政府としてイニシアチブを発揮してほしい。それにつけても、日本としては地域の安全保障のための平和維持活動への準備、その際の集団的自衛権の問題も早急に議論し、国民的コンセンサスを得なければならない。